今回は松下龍之介さんのデビュー作『一次元の挿し木』の考察とレビューを紹介します!
今作は第23回『このミステリーがすごい!』大賞の文庫グランプリを受賞した作品です!
デビュー作とは思えないほど深く練られているミステリーで、物語が二転三転と繰り広げられて読み応えたっぷりでした
それではあらすじから紹介していきます!
『一次元の挿し木』内容紹介

あらすじ
二百年前の人骨のDNAが
Amazon商品サイトから引用
四年前に失踪した妹のものと一致!?
ヒマラヤ山中で発掘された二百年前の人骨。
大学院で遺伝学を学ぶ悠がDNA鑑定にかけると、四年前に失踪した妹のものと一致した。
不可解な鑑定結果から担当教授の石見崎に相談しようとするも、石見崎は何者かに殺害される。
古人骨を発掘した調査員も襲われ、研究室からは古人骨が盗まれた。
悠は妹の生死と、古人骨のDNAの真相を突き止めるべく動き出し、予測もつかない大きな企みに巻き込まれていく--。
プロローグ
物語の始まりは24年前、インドのヒマラヤ山中にあるループクンド湖での探索です
この湖を探察しているの3人の探索チーム
- 石見崎明彦
- 七瀬京一
- 仙波佳代子
この3人には何やら秘密がありそうで、不穏な雰囲気のまま物語が始まっていきます。
200年前の人骨のDNA
物語は現代の日本に戻ります。
石見崎は大学で遺伝子学の研究室におり、七瀬京一の息子である七瀬悠がこの研究室に所属していました。
ある日、石見崎の元にループクンド湖で見つかった人骨が届き、悠にこの人骨のDNA鑑定を依頼します。
DNA鑑定の結果、200年前の人骨と4年前に失踪した悠の妹のDNAが一致したのです

どういうこと??
この結果だけでも充分不可解な状況の中、鑑定の結果を石見崎に報告しようとした矢先、石見崎が何者かに殺害されてしまうのです!
物語は大きく動き出す
石見崎の死と、人骨と妹のDNAが一致した謎を追う悠の元に、石見崎の姪を名乗る石見崎唯が現れます。
唯は悠の調査に協力するとともに、石見崎の死とともに行方不明になった石見崎の娘の捜索を行います。
ここから物語は大きく動き出します。
24年前に石見崎と七瀬とともに探察チームにいた仙波佳代子の元を訪れたり
七瀬京一の過去を探ると、ある宗教団体の存在が明らかになったり
その宗教団体に存在する”牛尾”と呼ばれる謎の人物
とにかく、壮大なスケールの陰謀が裏に隠れていたのです。
『一次元の挿し木』考察


ここからは『一次元の挿し木』の考察を紹介していきます
ループクンド湖の謎
今作の見どころの一つは実在するループクンド湖が一つのテーマになっていること
ループクンド湖はインドのヒマラヤ山中に氷河湖です
人が住めるような環境ではない場所で、現在何百もの人骨が見つかっています。
この人骨のDNAを解析すると、900年頃と1800年頃の遺骨があり、この地で昔が何が起き、どうしてたくさんの人間が死んだのかはいまだに明らかになっていません。
このような謎に包まれた湖が物語の舞台として活かされていて、作者の想像力が素晴らしいと感じました
タイトルの意味
今作のタイトルは『1次元の挿し木』
悠の妹である紫陽はループクンド湖にある骨のクローンとして生まれたことが明らかになります。
つまり、ループクンドの骨を挿し木として生まれたのが紫陽ということです。
そして、”1次元”はDNAという人間の最小単位における挿し木ということで、今作は『一次元の挿し木』というタイトルになったんだと思います。
エピローグについて
物語のエピローグでは、牛尾との決戦の時に姿を消した紫陽が登場します。
紫陽は樹木の会の教祖として奉られていたのです。
物語の中で樹木の会の本当の目的や、紫陽は元気になった本当の理由などは明らかになっていません
しかし、この不確実性もこの物語の魅力になっていると思います。
どうしても、宗教団体が物語に関わってくるとある程度無茶な設定でも成り立ってしまうものです。
おそらく、樹木の会はクローン技術で生まれた紫陽という存在を奇跡として捉えており、この存在を教祖として奉ることで団体のシンボルとしてるんだと思います。
『一次元の挿し木』実際に読んだ感想


今作は本当に面白かったです!
実在する謎の湖を題材に活かしつつ、スケールを最大まで広げた上で綺麗にまとめ上げたのは作者の技量の高さだと思います。
『このミステリーがすごい!』大賞を受賞するのも納得の出来で、ミステリーとしての完成度も素晴らしいです。
正直、謎の宗教団体を絡ませるテクニックは、物語のスケールを大きくする上でよくみられるものですが、活かし方がうまかった
宗教団体の裏には、現実の製薬企業の陰謀も隠れていて全てが綺麗に繋がっているように見えました。



作者の頭の中を覗いてみたい・・・
文末の解説の中で、作者は大賞受賞に自信を持っていたみたいで、文庫グランプリだったことを落ち込んでいたみたいです。
デビュー作でここまでの作品を仕上げ、次回作への意欲もある作者の次回作には期待大です!
『このミステリーがすごい!』大賞オススメ作品


今作は2025年第23回の『このミステリーがすごい!』大賞の文庫グランプリに選ばれましたが、そもそもこの賞ってなんなんだという方もいるんじゃないでしょうか
『このミステリーがすごい!』大賞は2002年創設され、元々1988年に刊行が始まった『このミステリーがすごい!』という雑誌の知名度が高まってきた影響で始まりました。



みなさんも書店で一度は見たことがありませんか?
ミステリー好きにオススメの雑誌です!
そして、この大賞の醍醐味はミステリー要素があればジャンルはなんでもいいこと!
SF小説や時代小説などなんでもよく、今作のような古代エジプトを舞台にしたミステリーなんかも大歓迎になっています!
また、作家さんも様々な職種の方が大賞を受賞されており、幅広いミステリーを読みたい人にオススメの作品が多いです!
作品名 | 作家の職種 |
---|---|
『ファラオの密室』 | 弁理士 |
『名探偵のままでいて』 | 放送作家 |
『チーム・バチスタの栄光』 | 医師 |
『元彼の遺言状』 | 弁護士 |
まとめ


今回は松下龍之介さんの『一次元の挿し木』の考察とレビューを紹介しました!
デビュー作とは思えない練り込まれたストリーで、『このミステリーがすごい!』大賞を受賞するのも納得の作品です。
DNAや宗教団体など大きく広げた風呂敷をまとめる技量も素晴らしいですが、複雑な内容をわかりやすく物語にする文章も素晴らしいと感じました
皆さんもぜひ読んでみてください!
最後まで読んでいただきありがとうございました!




読書しましょう!