今回は町田そのこさんの新境地となるサスペンス巨編『月とアマリリス』のあらすじとレビューを紹介します!
山中におばあさんの死体を埋める3人組の不穏な様子から物語が始まり、一人の記者がこの事件の真相に迫っていきます。
サスペンスとしても面白さはもちろん、一人の記者の生き様に迫った物語になっています。
それでは、物語のあらすじから紹介していきます!
『月とアマリリス』あらすじ紹介

まずは、物語のあらすじから紹介していきます。
あらすじ
北九州市の高蔵山で一部が白骨化した遺体が発見された。地元のタウン誌でライターとして働く飯塚みちるは、元上司で週刊誌編集者の堂本宗次郎の連絡でそのニュースを知る。
Amazon製品サイトより引用
遺体と一緒に花束らしきものが埋めれられており、死因は不明だが大きな外傷はなかった。警察は、遺体を埋葬するお金のない者が埋めたのではないかと考えているという。
遺体の着衣のポケットの中には、メモが入っていた。部分的に読めるその紙には『ありがとう、ごめんね。みちる』と書かれていた。
遺体の背景を追って記事にできないかという宗次郎の依頼を、みちるは断る。みちるには、ある事件の記事を書いたことがきっかけで、週刊誌の記者を辞めた過去があった。
自分と同じ「みちる」という名前、中学生のころから憧れ、頑張り続けた記者の仕事。すべてから逃げたままの自分でいいのか。みちるは、この事件を追うことを決めた──。
プロローグ
物語は3人の男女がおばあさんを山に埋めているシーンから始まります。
3人うち1人の女性の名前だけ明かされ、その女性は埋めているおばあさんの姿を見て涙を流しています。
そして、主犯格っぽい男子が2人に命令しながら急いでおばあさんを埋めている様子
不穏な雰囲気の中、物語が始まっていきます

真相を知った後、読み返してみると見え方が変わって面白いですよ
登場人物
- 飯塚みちる
-
物語の主人公
週刊雑誌の記者をしていたが、過去の事件のトラウマで退職。現在はタウン誌のライターをしている - 堂本宗次郎
-
みちるの元カレ
みちるとは週刊雑誌の記者をしている時に付き合っており、退職を機に別れた
山中に捨てられたおばあさんの遺体が発見されたことで、この事件の取材をみちるに依頼する - 丸山佑
-
警察署の刑事で、堂本の大学時代の友人
刑事として、みちると連携しながら今回の事件を追っている。 - 井口雄久
-
みちるの協力者
みちるの実家の近所に住んでいて、小さなきっかけでみちるの事件の調査を手伝うことに
山中で見つかった遺体
週刊雑誌の記者をしていた飯塚みちる(以下みちる)は、過去に取り上げた事件のトラウマで退職し、タウン誌のライターをしていました。
そんな時、元カレの堂本宗次郎(以下堂本)から仕事の依頼が舞い込みます。
それは、山中で見つかった謎のおばあさんの遺体遺棄事件
このおばあさんの遺体のポケットにはメモが入っていました
その内容は、『・・れてありがとう。ごめんね。みちる』
自分と同じ名前が書かれたメモを持っており、みちるはこの事件の調査を行うことになります。



このおばあさんの遺体が、プロローグで埋められた遺体なんです。
もう一つの遺体
事件の調査を始めていくと、みちるは遺棄された遺体の身元を突き止めます。
そして、遺体の住所まで行き着いたみちるは、そこでもう1人の遺体を発見してしまうのです
その遺体は若い女性で、明らかに何者かに殺害された痕跡がありました
この遺体の身元は菅野茂美
水商売をしていたらしく、この家で4人で住んでいたようでした。
明らかになる事件の黒幕
連続死体遺棄事件として調査を進めていく中で、みちるは学生時代にみちるのことをいじめていた同級生に再会します。
ここから事件は一気に進み、死んだおばあさんが持っていたメモの”みちる”という人物が同級生ではないかという疑惑が生まれます。
自ら忘れようとしていた苦い学生時代の記憶を思い出しながら、みちるは事件の黒幕を突き止めます。
そして、みちるが行き着いた真相の先には悲しい現実が待っているんですーーー
『月とアマリリス』見どころ(ネタバレあり)


ここからは、『月とアマリリス』の見どころを紹介していきます!
みちるが持つ記者時代のトラウマ
今作はサスペンスとして事件を追いかけていきながら、みちるの記者時代のトラウマも描かれます。
ある中学校で1人の女子中学生が自殺をしました。
自殺の原因はいじめ
いじめの内容は悲惨で、両親は加害者への謝罪を求めましたが学校側から拒否されました
誰1人として加害者は裁かれなかったのです。
そのことを知ったみちるは事件を調査し、加害者のイニシャルを記事にして公開しました。
しかし、その結果加害者であった1人の少年が自ら命を断とうとしてしまったのです。
正義だと思って書いた記事で、新たに誰かの心を傷つけてしまったみちるは記者を辞めるのです。
このトラウマから立ち直り、記者の本当のあり方を見つけていくみちるの姿はかっこよく、輝いて見えました。
ただのサスペンスでは終わらない!
今作はサスペンスとしても素晴らしいのですが、それだけではありません!
事件の真相が明らかになってからも物語は続き、みちるが記者として新たに歩み出す姿も描かれます。
トラウマを乗り越え、記者の本当の意味を見つける姿が今作の本当の見どころだと思います。
知らないところで現実でも起きてるかもしれない出来事
事件の真相を知っていくと、正直かなり酷い現実を知ることになります
そこには、1人の男に振り回され、気づいた頃にはもう逃げ場が無くなっていた弱い女性の姿が描かれます。
現実で物語ほど酷いことはないかもしれませんが、小さい頃から周りからの愛情を受けることができず、間違ったものを信じて逃げられなくなる人っているんじゃないかなと思いました。
実際に読んだ感想


すごく内容の濃い作品で、ただのサスペンスに留まらないところが流石だと思いました!
物語でありながら、ノンフィクションの記事を読んでいるかのような気分にもなります。
事件が全て明らかになって後、物語の中でみちるはこの事件を記事として発表します。
はからずも事件の加害者になってしまった、1人の女性にスポットが当たり、辛く悲しい事件が世間に公表されるんです。
実際、この作品を書き始めるにあたって、町田そのこさんはノンフィクションライターの方に取材を行ったようです。
本当に濃密で、それでいて心の深くまで刺さる作品だと思いました。
印象に残った一文


一つ目
誰だって、誰かを傷つけて生きてきてるんだよ。自分もそうだと気づいたのなら、これ以上傷つけないように気をつけていくしかない。
『月とアマリリス』221ページ
すごく当たり前に感じる言葉だと思うんですけど、こうやって改めて文章としてみてみると響きました。
頭では相手のことを傷つけないようにしているつもりでも、ちょっとしてことで知らずに相手を傷つけていることがあるかもしれない。
当たり前を改めて考えさせられた一文でした。
二つ目
自分の『多分』で描くのは『ほんとう』を見失ってしまう。何回も試して、『ほんとうのかたち』を探す
『月とアマリリス』282ページ
人は人と何度も触れ合っていく中で、相手の気持ちを知っていくものだと思います。
しかし、相手のことを分かった気でいても知らずのうちに、自分の中で『多分相手はこう思っているだろう』という憶測が混じってしまうと思います。
この憶測が混じった姿は、相手の本当の姿じゃありません。
この言葉を見て、相手の本当の姿を知るためには何度も相手と触れ合って、相手の『ほんとう』を知らないといけないなと強く感じました
三つ目
人生の幕が下りる時、こんな風に祝福の拍手があるといいな。そういう生き方をしたいね。
『月とアマリリス』357ページ
人が亡くなる時って、どうしても悲しい気持ちになりますよね
でも、亡くなった本人からしたら「よく生き切った!やり切った!」って思ってるかもしれません。
そんなことを考えると、亡くなった時に拍手で送ってあげることもいいことなんじゃないかと思いました。
まとめ


今回は、町田そのこさんの『月とアマリリス』のあらすじとレビューを紹介しました
ただのサスペンスで終わらない、ノンフィクションのような物語でした。
気になった方はぜひ読んでみてください
最後まで読んでいただきありがとうございました!

